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名古屋高等裁判所 昭和37年(ネ)26号 判決

控訴人 中村薫 外一名

被控訴人 学校法人名城大学

主文

原判決を取消す。

本件を名古屋地方裁判所に差戻す。

事実並理由

一、控訴人等代理人は「原判決を取消す。本件を名古屋地方裁判所に差戻す。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴人の請求通りの判決を求めた。控訴人等の請求の趣旨、並請求原因はすべて原判決記載の通りである。〈立証省略〉

二、原審は被控訴人学校法人名城大学(以下単に名城大学と称する。)理事兼松豊次郎、及同伴林を代表者とし名城大学を被告として提起した本訴を右兼松等は名城大学を代表する権限を有しないとして却下したことは原判文上明である。そこで、兼松等が名城大学を代表する権限を有するかどうかについて判断する。

被控訴人各城大学の寄附行為第十条において私立学校法第三十七条第一項但書に基き「理事長以外の理事はすべてこの法人の業務についてこの法人を代表しない。」旨及同法第三十七条第三項に基き寄附行為第十一条において「理事長に事故あるとき、又は理事長が欠けたときは理事長があらかじめ指定した他の理事が順次理事長の職務を代理し、又は理事長の職務を行う。」旨規定していること、名城大学の登記簿には理事長の代表権の制限として「理事長以外の理事はこの法人の業務についてこの法人を代表しない。」と記載されていること、訴外田中壽一が名城大学理事長の職にありその登記もなされていたが、同人は昭和三十五年十一月十一日死亡しその旨登記せられ、その後名城大学においては後任の理事長が選任せられていないこと、前記寄附行為第十一条に基く理事長の職務を代理し又は理事長の職務を行うべきものが前田中理事長によつて指名されていなかつたこと、兼松豊次郎及伴林が名城大学理事であつてその登記もなされていることはいずれも当裁判所においても顕著な事実である。

ところで、以上のような事実関係の下において果して兼松豊次郎及伴林が被控訴人を代表する権限を有するかどうかが本件の問題である。私立学校法第三十七条第一項は理事長が定められていても各理事はそれぞれ法人を代表する権限を有するものとし、只、寄附行為によつてその代表権を制限することを得る旨規定している。被控訴人名城大学において田中壽一がその代表権を専権していたのも私立学校法の右規定に基き各理事の代表権を制限していたからに外ならない。従つて、前記の如く、理事長田中壽一が死亡し、且理事長の職務を代理し又は職務を行うべき者が指名されていない以上特段の事情がない限り当然に各理事はその代表権の制限から脱し、各理事は被控訴人を代表する権限を有するに至るものと解すべきである。私立学校法及同法施行令が理事の代表権の制限を以て必要的登記事項と定め登記後はその制限を以て第三者に対抗し得ることとしたことのみを以て右解釈を左右することができないものというべきである。

そうすると、特段の事情の認められない本件においては兼松豊次郎は被控訴人を代表すべき権限を有するものというべきである。もつとも、伴林については名古屋地方裁判所において職務執行停止仮処分を受けていることは当裁判所において顕著な事実であるから同人が名城大学を代表する権限を有しないものといえるかもしれないが、少くとも兼松についてはその代表権限を否定すべき特段の事情は見当らない。

然るに、原審は兼松豊次郎及伴林はいずれも被控訴人を代表する権限を有しないとして控訴人等の本訴請求を不適法として却下したのは不当であるから之を取消し本件を名古屋地方裁判所に差戻すべきものである。

以上の理由により民事訴訟法第三百八十八条第八十九条第九十五条を適用し主文の如く判決する。

(裁判官 県宏 越川純吉 奥村義雄)

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